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私の悩みなど到底知る由も無い、そんな様子で私の駄作を熱く語る涼音という自称幽霊。
きっと彼女は、「評価される文学とは何なのか」と理解できてはいないだろう。そもそも、その駄作には熱く語るシーンのない随筆のような物なのだ。
しかし、私はそんな彼女の言葉に気が楽になった。余りにも無責任な、彼女の讃辞に励まされたのだ。
私は、父との才能の差に半ば悲観していた。そんな、ひねくれた私には甘々な激励が良い塩梅だったのかもしれない。
「なぁ幽霊殿、何も無い家に一人では退屈しただろう。一つ私が話相手になろうか?」
「良いのですか、夏生様!」
「ああ、私も君に少し興味が湧いたようだ」
「夏生様、では生い立ちの話がお聞きしたいです」
「何だ、私の生い立ちなど面白くもないぞ?」
「夫になる方の、生い立ちについて是非とも知っておきたいのです」
「誰が、嫁に来てくれなどと頼んだのだ」
だから、頬を赤らめて言うのは止めろ。冗談にならないではないか。
それから涼音に、生を受けてからの話に抑揚を付けて話してやった。彼女は「ふむふむ」とやかましい相槌を打ち、山も谷もない話に耳を傾ける。
話している中で、一つの考えが浮かぶ。この『幽霊』の『生い立ち』……いや『旅立ち』とは、どのような物か?
「そうだ、涼音。君のような幽霊の生い立ちはどのような物なのだ?」
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