涼しげな音色

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「夏生様、それは困ります」 「どうしてだい、涼音?」 「その質問は、稚児の時の事を細かに教えろと仰るのと同義ですから。気付いたら、此処に居たと申すしかありません」  涼音は戸惑った顔で、解りかねるといった具合である。気付いたらそこに在った。では彼女にはその間、何が起こったのだろう? 「では、質問を変えよう。何が未練で、この世に残るのだ?」 「お答えできません。その質問は、例えるなら産声を上げる前は何をしてたか教えろと仰るのと同義ですから」 「ははっ……はははは、いやぁこれは滑稽だな」 「何がです夏生様?」 「何かが恨めしくて化けて出た幽霊が、何が恨めしいか解らない。これを滑稽と言わず、何を滑稽と言うのだ。」 「私は、本気で困り果てているのですよ。解っていれば、今頃極楽浄土に居ます」  「すまない、すまない」と怒った涼音をなだめ、私は彼女を見つめ考えた。 「なあ、涼音。」 「何でしょうか、夏生様」 「君の成仏を、私が手伝おうじゃないか」 「手伝う?」 「君の心残りを、全力で取り去ろうと言うのだ」  この片田舎で、幽霊に出会ったのも何かの縁。せっかくの縁だ、雑には扱うまい。
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