人の情

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 私は、村人達が帰ったのを見送り屋内に戻ろうとすると一人の女性が立っていた。 「どうされましたか?」 「いやねえ、先生に用が有っただけだよ」 「何度も言うようですが、私はただの書生ですから先生と呼ばれるような……」 「なら夏生、私は陶芸をしてるんでね芸術家同士触発しおうじゃあないか」  そう言って彼女は、私に背を向けた。それからゆっくりと歩き始める。 「お名前は?」 「紅葉」  彼女は一度だけ振り向き、良く通る声で言った。振り向いた彼女を夕日が照らして、名の通り紅葉のようだった。 「夏生様~手伝ってください」  屋内からの声にハッとし、私は振り向き屋内へと足早に戻って行った。      ***** 「何を拗ねているんだ涼音」 「私はどうせ下女ですから」 「では屋敷の幽霊だと申せば良かったのか?」 「……夏生様の意地悪」 「意地悪で結構」  それだけ言うと黙って、互いにお茶をすする。 「夏生様」 「何だ涼音?」 「私の事が、恐ろしくはないのですか?」 「怪談話は得意ではないが、幽霊という物が君のようなら、私は恐ろしくはないよ」 「……初めてでした」 「何だ?」 「初めてでした、私を見て逃げなかった人は……」 「皆、郷長のように裸足で逃げ出したか」  私は、郷長の青い顔を思い出して笑いながら答えた。 「夏生様」 「何だ涼音?」 「私の話を、聞いてくださって有り難うございます」 「この村の人達と同じだ。お節介かもしれんが、助け合うというのは気分が良いものだ。」  私はこの村に来て初めて、星空には意味があり綺麗な物なのだと気付いたのだ。
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