家憑きは家から出れず

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「夏生様、夏生様」 「何だい涼音?」 「ここ数日の夏生様は家に籠もって、起きては本を読み、暫くしてペンを取り綴り……」  私は黙って、目線を落とし小説の活字を追う作業に戻る。 「空を眺めボーっとされて、また本を開き読み、暫くして食事を取られ……」 無視、無視。 「ペンを取り綴り、階下に降り甘いものをつまんでは、本をまた読まれ……」 無視、無視、無視。 「私に『夕食は何か?』と尋ねられては、また本に目線を戻して……」 無視、無視、無…… 「暫くすればまたボーっと空を眺めて、ペンを取り綴り……」 「五月蝿い! では涼音は、何がお望みか? 句でも詠もうか? それとも、芸の一つでもしてみせようか?」 「私は……ただ、そのような生活は健康に良くないと夫殿に申し上げただけです」 「……誰が夫か!」 「貴方にございます!」  涼音は、左右の頬を餅のように膨らませ「不機嫌だ」とあからさまに顔に出した。  私は、小説を置き大きな溜め息をついた。それから、涼音の頭を撫でる。 「散歩にでも行くか?」  根を詰めていたし、このせせこましく家事をする幽霊殿に付き合ってやるのも、偶には良い息抜きになる。
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