12人が本棚に入れています
本棚に追加
「夏生様、夏生様」
「何だい涼音?」
「ここ数日の夏生様は家に籠もって、起きては本を読み、暫くしてペンを取り綴り……」
私は黙って、目線を落とし小説の活字を追う作業に戻る。
「空を眺めボーっとされて、また本を開き読み、暫くして食事を取られ……」
無視、無視。
「ペンを取り綴り、階下に降り甘いものをつまんでは、本をまた読まれ……」
無視、無視、無視。
「私に『夕食は何か?』と尋ねられては、また本に目線を戻して……」
無視、無視、無……
「暫くすればまたボーっと空を眺めて、ペンを取り綴り……」
「五月蝿い! では涼音は、何がお望みか? 句でも詠もうか? それとも、芸の一つでもしてみせようか?」
「私は……ただ、そのような生活は健康に良くないと夫殿に申し上げただけです」
「……誰が夫か!」
「貴方にございます!」
涼音は、左右の頬を餅のように膨らませ「不機嫌だ」とあからさまに顔に出した。
私は、小説を置き大きな溜め息をついた。それから、涼音の頭を撫でる。
「散歩にでも行くか?」
根を詰めていたし、このせせこましく家事をする幽霊殿に付き合ってやるのも、偶には良い息抜きになる。
最初のコメントを投稿しよう!