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「それは……適いません」
一瞬直った膨れっ面は、また元に戻ってしまう。今度は俯いてしまい、いじけてしまったようだ。
「どうしてだ?」
「いけません」
「何がいけない?」
「行けません! 私は、ちゃらんぽらんの浮遊霊などとは違って家憑きですから……」
「……家から出れんと?」
そう尋ねると、涼音はコクンと頷いた。少しだけ見えた瞳は潤んでいたように見えた。
「解った、全身全霊を以て君を外に出してみせよう」
涼音の顔が明るくなる。そうだ、頭を捻りさえすれば直ぐに出来よう。
*****
「何をされてるのですか?」
「縄で君を引っ張ろう」
「は?」
涼音の顔が、一瞬で強張る。何、気にする事は無い。私もよく父に、風邪で寝込んだ時「その程度で勉学を怠るな」と引きずられたものだ。
「いや、夏生様……」
「構わんよ、なんせ涼音は軽いからな。」
私は「ははは」と笑いながら走り出した。私の腰にくくりつけた縄は、涼音の腰にもくくりつけてある。
恐らく人間である私が、家憑きの涼音を引いてやれば出る事も可能なのではないか?
「夏生様~! 夏生様~!」
「恐れるな、付いて来……」
――ビタン!――
何かを打ち付ける音と、腰の縄が私の腹部を締め付ける感触が「失敗」を告げた。
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