憑いている

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 今しがた読んだ本には「幽霊とは、成仏する事ができなかった人間の魂魄」なんてことが書いてあった。    数日前の私だったら、そこで近所にある古本屋に直行しただろう。結果的には読了したが、この瞬間に最も必要な知識は得られなかった。  つまり、私には横にいる自称「幽霊」を名乗る彼女をどうすればいいのか分からないのだ。 「書生さん、書生さん」 無視。 「書生さんったら!」 無視。 「書生さん聞いてます?」 無視。 「書生さん答えて~」 無視、無視、無視。  断じて、私は彼女を認める訳にはいかないのだ。  昔、母によく言われた事を思い出す。「丑三つ時に起きていると幽霊が来るぞ」と。  しかし実際は、母が私に夜更かしをさせぬ為に言ったのだろうと思っていた。  ――だが、今は白昼である  春の日差しは温かく、風車は緩慢に勢いなく回っている。 「白昼夢だ」  目の前にある世の中の常識を逸脱した出来事に、至極当然である結論にたどり着く。  私は自分の頬を、ギュッとひと思いにつねった。つねった部分が痛い。  父さん、すみません。貴方が今まで大事にしてくださった息子は、気が狂れてしまったようです。 
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