12人が本棚に入れています
本棚に追加
/34ページ
今しがた読んだ本には「幽霊とは、成仏する事ができなかった人間の魂魄」なんてことが書いてあった。
数日前の私だったら、そこで近所にある古本屋に直行しただろう。結果的には読了したが、この瞬間に最も必要な知識は得られなかった。
つまり、私には横にいる自称「幽霊」を名乗る彼女をどうすればいいのか分からないのだ。
「書生さん、書生さん」
無視。
「書生さんったら!」
無視。
「書生さん聞いてます?」
無視。
「書生さん答えて~」
無視、無視、無視。
断じて、私は彼女を認める訳にはいかないのだ。
昔、母によく言われた事を思い出す。「丑三つ時に起きていると幽霊が来るぞ」と。
しかし実際は、母が私に夜更かしをさせぬ為に言ったのだろうと思っていた。
――だが、今は白昼である
春の日差しは温かく、風車は緩慢に勢いなく回っている。
「白昼夢だ」
目の前にある世の中の常識を逸脱した出来事に、至極当然である結論にたどり着く。
私は自分の頬を、ギュッとひと思いにつねった。つねった部分が痛い。
父さん、すみません。貴方が今まで大事にしてくださった息子は、気が狂れてしまったようです。
最初のコメントを投稿しよう!