憑いている

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「これは、これは立派な一軒家ですね郷長?」  案内された家は外観からして立派であり、書生如きが住むには余りある。  しかし父が私の為に、このような立派な家を用意して下さったと思うと身が引き締まる思いである。 「しかし本当に良いのでしょうか郷長、私如き若輩がこのような立派な家に……」 「いや気になさるな。いやぁ君はツイてるよ君は!」  郷長はそう言って、バシバシと私の肩を叩く。それから慌てて走り去っていった。  変わった人だ。単にその言葉で私は片付け、目の前の新たに住む家へと入って行った。  玄関に入り中を見ると、少し前までは人が住まっていた痕跡がいくつか見れる。  柱には、先住者の「たけくらべ」の跡が刻まれていた。「たけくらべ」と言えば、樋口一葉の代表作であるが読んだ事はなかった。  居間にはテーブルがそのまま残されていたので、私は椅子に腰掛ける。  荷解きはまだだったが、読みかけの小説が気になり、懐から出した。さっき読んだページを開き、栞をテーブルに置いて読み始める。 「書生さん」  綺麗な、和服を着た女性が居間の入り口に立ち……いや出口でもある。  いや問題なのは、そこではない。その女性は、正確に言えば立ってはいないのだ。何故なら彼女は地に足をつけていないからだ……  「地に足がついてない」と言っても、世の中の甲斐性なし達が親に言われるのとは意味が余りに違う。  実際に地面と彼女の足が触れ合っていないのだ。 「……!」 「お気付きですか書生さん?私は幽霊なのです」  彼女は言った。私は寝室に駆けていき、荷を解き一冊の本を取り出した。「霊体について」信憑性にかけるそれを私は居間に戻り読み始めた。
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