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福岡県の最北部にあるこの街の、
6月にしては肌寒い日だった。
夜9時近く。
空は雲に覆(おお)われていて、
月も星も見えない。
黒々と連なる神貫(かんぬき)
山系の麓(ふもと)に広がる
広大な国定公園内を、
ゆっくりと走る人影があった。
住宅地から延びる
細い舗装道路を
まっすぐ登ってきたその人影は
ふいに右に折れて
道から外れた。
躊躇なく暗い林の中へ
踏みいってゆく。
整った顔立ちの若い女だった。
スリムな長身で、
長い髪を後ろで束ねている。
鮮やかな赤と白の
ツートンのランニングウェアを
着たその女は、
暗い林の中の未舗装の道を
ゆっくりと進んで行った。
暗い道は1キロ半程先の
開けた「森林公園」まで
続いている。
その女の周りを…
取り囲むようにして
移動している「影」があった。
「影」達は、
緑色に光る両眼で
女の姿を捉(とら)えながら…
木々の間の濃い闇の中を
地面を滑るように
音もなく移動していた。
女は得体の知れない「何か」に
囲まれていることを
知ってか知らずか……
美しいフォームで、
街灯の光が届かない
林の奥へと進んで行った。
爛々(らんらん)と
目を輝かせながら
女を追う「影」達…。
まだ虫が鳴き始めるには早い
6月の林の中は
しんと静かで、
女の規則正しい呼吸音と
土を踏む足音、
時折吹く風の音だけが
響いていた。
林に入って1キロ近く。
前方に小さな灯りが
見えてきた。
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