プロローグ

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大きな四輪駆動車だった。 エンジンをかけたままの 車のドアが開き、 ゆっくりと運転席から 出てきたのは…… 大きな男だ。 長身の女より 更に頭ひとつ高く、 ガッシリとした体格。 パーカーにジーンズという 服装だった。 女の表情は更に強張った。 手足は細かく震えている。 キャップを深めに被っていて、 目のあたりの表情は見えない。 髪には艶(つや)がなく 縮れてボサボサ。 皮膚も張りがない。 頬(ほほ)からアゴ、 首にかけて肉が ダブついている。 中年の男だ。 ドン!と大きな音を立てて 男が運転席のドアを 閉めた時、 女の体がびくりと弾んだ。 「こんな時間にこんな暗い所を ゆっくりゆっくり 走ってくれるなんてなあ…」 男の声は意外に甲高く。 ネチャついた しゃべり方だった。 「誘っているんかい、 麻由子(まゆこ)……?」 声に笑いを含んでいる。 「やっと俺を受け入れて くれる気になったんかい…?」 「誰があんたなんか!!!!」 女の、強く鋭い声が 木々の間に響き渡った。 また強い風が吹き、 葉が枝がザーーッと鳴った。 「だったら何でこんなとこを 走ってる。 俺が追いかけてるのを 知ってんのにさあ。」 「うるさい!!家にたくさん 変なモノ送り付けてきて、 私の家族まで不安がらせて。 何のつもりよ!!」 男は体をクネらせて、 甲高い笑い声をたてた。
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