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「はあ、はあ…」
暗い夜道に自転車を走らせながら、私は急いでいた。
(由美の家を出たのが19時30分頃だから……帰り着くのは20時頃だろうか)
そんなことをぼんやりと頭の隅に思い浮かべながら、私は時計を家に忘れたことを悔やむ。
そして私は、この先で待ち構えるとある場所のことで頭をいっぱいにする。
(三田の紅い霧…)
この町では夜、三田という区のとある道で紅い霧が見えるという噂がある。
その霧を見た者は神隠しに合ってしまうのだそうだ。
本当かどうかは定かではないが…実際消えた人も何人かいるらしい。
もっとも、町の7割を老人で占めるこの町はそういう迷信めいたものを信じる者が多く、この時間その道を通る者はなかなかいない。
そしてその道を…私は今通ろうとしている。
暗くて細い道が真っ直ぐに続き、青白く光る電灯が3本程度しか立っていない。
人が通らない分、電灯も少ないのだ。
(でも…ここを通った方が近道なんだよね)
そんなことを思いながら、私はその三田の細道へペダルを踏んだ。
これが……きっと私の運命の分かれ道だったんだと思う。
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