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予想外の展開だったのだ。
“何の返事もこない”
というそのことが。
正直言って、フラれるのがこんなに大変だとは思ってもみなかった。
交錯する、わずかな期待と圧倒的な不安。それでも、
“たとえ今回フラれても、あきらめないもんね!”
と、腹をくくって手渡したラブレター。
ケータイ番号とメルアドを書き添えたとは言え、それですぐさま電話かかってきたりメールが送られてくるとあっけらかんと信じていたわけではない。しかし、たとえフラれるにせよ、少なくともスーパーのレジで顔を合わせた時に、小さな声で『ごめんなさい』とでも言ってもらえるんじゃないかとは思っていた。
だがこれまでのところ、
“返事が無いのが返事”
という状態が続いていて、期待を裏切られた気がしていたのだ。
受け答えも働きぶりも、いつもしっかりとしている奈央さんなら、オレのこの想いにもきちんと応えて答えてくれるにちがいない。単純にそう信じていた。
だから、
“裏切られた”
と、そう思った。
そして、レジで会計を済ませたあと、
『催促できる立場じゃないけど、オレの気持ちに対する返事を聞かせてもらえませんか?』
『お仕事終わったら、店の前のポストの横のベンチで待ってます。…たとえあなたが来なくても』
とかなんとか言って、彼女の気持ち確かめよう、と計画を立て始めていた。
そのくらい、“放置されてる自分”が心配で可哀想で、やりきれない思いを抱いていたのだ。
スーパーの店員の顔をしていない彼女と話す機会を作って、いったい何を話す気でいたかといえば、
『オレは、返事が無いのが返事、とは思ってませんから』
とか、
『やさしい人だと思ってたけど、案外そうでもないんですね』
とか、
『それでもオレの気持ちは変わりません』
とか…。今にして思えば、自己卑下からくる邪推に基づいた、独り善がりで身勝手な言い分ばかりだった。
“いや…ちょっと待て”
そう思い、自分かわいさからくる身勝手な思考から逃れることができたのは、花岡さんと話したおかげだった。
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