[1] 初夏

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 くそう……あれほど、答えは一貫してNOと決めていたのに、あの強烈な笑みであっさりやられてしまうとは不覚だ。  しかしこれだけはいわせて貰おう。 「この家では『俺がルール』だ! 俺に従えないなら直ぐに出て行って貰うからな!」  漸く慣れてきた独り暮らしを、この唯我独尊な公輝に荒らされたくはない。  それを牽制する為に約束させようとしたのだが、 「はーい。性的欲求まで叶えまーす」 「いらんわ!」  本当に分かっているのか? コイツは……。  妙に馴れ馴れしくなった公輝は、玄関で靴を脱ぐと一歩部屋に踏み込んだ途端、 「……あのさ、掃除くらいすれば?」  埃の被った靴箱の上を指でなぞり、その指先に息を吹き掛け俺を見上げた。  その表情は呆れたように、残念な人間を見ているかのようだった。 「今日やるつもりだから! 決して言い訳じゃないぞ! 現に今から洗濯やら掃除を――」 「へぇー」  って、話を聞けぇい!  公輝は俺の話を軽く聞き流し、ずかずかと部屋の奥へ歩き出す。  そして居住空間であるリビング兼寝室のベッドに腰掛けた。  
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