[1] 初夏

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 俺は公輝の何処を見ていたのだろうか。  ただ単に『話をしない』から、という理由だけで、公輝の根の部分を見る気になれなかっただけじゃないのか?  口が悪いし、懐いてくれないから――たぶん、単純な理由だったのかも知れない。  友達の多い公輝は外面が良いだけかと思っていたけれど、良く良く考えれば、母さんの言い付けはちゃんと守ってたし、母さんも『夜遊びするな』とは注意してなかった。  健斗を構っていたのは面倒見の良い性格が現れたからだろうか。  まぁ、健斗は公輝を良い目で見ていなかったようだが。  もしかすると公輝は『甘え下手な奴』かも知れない。  母さんに誉められたくて、家の事をし出すようになったとすれば――なんて健気な奴なんだよ……!  と、妄想に浸っているが、 「おいッ! 暑い! 早くどこか連れてけッ!」  掃除、洗濯を完遂した公輝は既に限界のようで、俺の腕をグイグイ引っ張る。  玄関まで連れて行こうとしているようだが、 「お前、マジで太ったろ?」 「うるせぇ! 第一、お前が俺を引っ張るのは今日が初めてだろうが!!」  やっぱり、この弟様は失礼というか、可愛くないというか――けれど、少しだけ公輝に対する見方が変わった気がした。  
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