[1] 初夏

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 独り暮らしを始めた当初は、毎日のように母さんから電話が掛かって来て、 『健斗が泣いて聞かないのよ。兄ちゃんに会いたい! 兄ちゃんと一緒に寝る! って。ちょっとで良いから声聞かせてあげてよ』  電話越しから健斗が寝付くまで相手をさせられたりもした。  最近は慣れて来たのか、毎日の電話はないけれど、たまに振り返すのか、健斗が駄々を捏ねてうるさいらしい。  もうすぐ夏休みが始まるし、俺も健斗に会いたいし、 《夏休みになったら家帰るから。健斗にそう伝えといて》  母さんにメールを送った刹那、俺の部屋の呼び鈴が鳴った。  ピンポーン、なんて洒落たものじゃない。  一昔前のか? と思うくらいに質素な『ブーッ!』という、ただ来客を知らせる為だけの音だ。 「こんな休日の朝早くから誰だよ……」  俺は仕方なく、暑さにやられダルくなった体を動かせて、玄関へ向かった。  その間、せっかちな来客者は何度も何度も呼び鈴を鳴らす。  その執拗なまでの呼び鈴の回数は、十回を軽く越えていた。  
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