[1] 初夏

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[1] 初夏

 蝉の鳴く声が激しくなる夜明けは、目覚ましの代わりとなり、けれど寝覚めが悪かった。  独り暮らしを始めてから約三ヶ月半。四月の初頭からアパートの一室を借りて暮らしている。  白亜学園(はくあがくえん)から数キロ離れた場所にあるこのアパートは、親父に駄々を捏ねて漸く借りる事の出来た代物だ。  市立高校の入試に滑った俺は、滑り止めの私立白亜学園に入学する事となったのだが、これまた実家から距離があり、電車を乗り継いで二時間掛かる場所にあった。  毎日の事だから通学にそれほどの時間を割くわけにも行かず、親父を説得し、現在に至るわけだ。  しかし独り暮らしというのは思ってた以上に大変だったりする。  家事は全て自分でやらなくてはならないし、休日の大半が溜まりに溜まった洗濯や掃除に費やされ、ゆっくり休む事も出来ない。  料理の腕前はそこそこ成長したにしろ、満足の行く飯の支度も出来やしない。  尚且つ、仕送りの中でいかに上手く買い物出来るかどうかも肝心だ。  親の有り難みが漸く分かった気がした。  
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