序章

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暗い路地を走った。 いつまでも広くなることのない道を、もうすでに一時間以上走っている気さえした。 長時間走って、疲労は頂点に達している。 しかし、自己防衛本能に目覚めている早川銀次のまえでは、最たる隔たりには到底為り得ない。 黄ばみかかったワイシャツに長いコートを羽織り、ハンチングといういかにも張り込み途中のベターな刑事のような装いの銀次。 つまり彼は昔かたぎの刑事なのだ。 昭和も終わりに近づいた一九八五年、その頃ですら彼のようなベターな刑事は、日本を探しても彼ぐらいだ。 手には拳銃が握られている。 周囲の暗がりに埋もれる程、漆黒なそのリボルバーには、六発の弾丸を装填できるが、既に残りは二発。 四発は、"奴"の首をかすめた。
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