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ついに銀次は足を止め、軽く空を仰いだ。
東京のど真ん中とは思えないほど星は綺麗だ。
しかし、そんなことのために空を見たので無い。
風を感じた。
……風向きは変わらない。
予兆は無い。
一瞬の安息が銀次に訪れる。
銀次はズボンの左後ろポケットを探る。
……違う、警察手帳なんぞを見たいのではない。
今度はズボンの右後ろポケットを探り財布を取り出した。
開くと、中には変な顔でほくそ笑む銀次と、40年連れ添う妻、早川文恵と、自分とお揃いの濃紺の制服に身を包む一人息子、早川零次と、その妻、早川香織、そして母親に抱きかかえられて、満面の笑みを浮かべる昨年末に生まれたばかりの初孫、早川藤次が写っている。
この写真を写すとき、銀次も零次も、きりっと厳格な顔で写真に写ろうとしていたのだが、藤次の太陽のような笑顔につられて、微妙な笑顔になってしまったことを思い出した。
「文恵……零次……香織さん……」
息をきりぎりにしながら、小さな声でつぶやく。
「……藤次……」
拳銃を持った右手で、藤次の笑顔をなぞる。
「じいちゃん、頑張るけんな。」
財布をまた元の位置に戻し、かいた汗を左手で拭い、銀次はまた歩みを進めようとした。
刹那、後方からの強風と共に嫌な臭いがかすむ。
これは、硫黄……。
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