第一章

2/17
前へ
/142ページ
次へ
「暑い……」 早川藤次はジャケットを脇に抱えたワイシャツ姿でかんかんと照りつける小憎たらしい太陽を仰いだ。 八月が終わりたての今、気候は完璧に真夏。 しかし、多くの人が「もう夏は終わり。」と無理やりに意識を仕事や学校に向き直させていることだろう。 この時期の気候というのは実に皮肉だ。 しかし、そんな気分ではさらさらなく、もっと暑かった夏の真っ盛りにも仕事に駆り出されていた可哀想な若者、早川藤次は正にそれだ。 去年の今頃は、キャンパスメイト達と、この時期になっても夏を満喫していた。 しかし、社会人と成り果てた今の藤次には、そして、世のため人のために日夜、体を張る刑事となった今の藤次には、夏は糞暑い中、重労働を強いられる迷惑極まりない季節に他ならない。 汗を汗まみれのハンカチで拭い、さらに嫌な気持ちになりながら歩きつつ、藤次は隣を歩く男に目をやった。
/142ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加