夏休み

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「あー、確かに。 イケメン好きだけど、いざ自分と並ぶとなるとちょっと気後れするよね」 「……」 「圭介、どうした?」 「あ、いや、なんでもない……」 「圭介……?」 「ホント、なんでもないって。 あ、俺焼きそば食べたいな。 智里はどうする?」 「……」 「智里? うわっ!?」 「行くぞ」 「ちょっどこに行くつもりだよ、そっちは何もないぞ!」 「良いから!」 強い力で引っ張られて川原とは反対側の土手に進む。 会長に何度も声をかけたけど無言で、さっきまでの良かった空気も一気に壊れてしまった。 気まずい空気。 それを作ったのは紛れもなく自分だ。 ちゃんと話した方が良かったんだろうか。 でもこんな、劣等感丸出しなことを話すのは嫌だった。 「ここで良いか」 立ち止まった会長の呟きに周囲を見渡すと、ちょうど見物客から死角の位置になっている場所だった。 電柱のライトに群がる虫の羽音が響く。 会長の視線を感じたけど合わせることが出来なかった。 ……これじゃ終業式と同じじゃないか。 「何かあったんだろ? 教えて欲しい」 「……」 「……俺に、言えないことか?」 「あ……」 悲しそうな声に顔を上げる。 けど視線が合うことはなく、今度は会長が土手の方を向いて顔を逸らしていた。 「……悪い」 「え……」 「はぁ、空回ってるな俺。 久しぶりで、しかも初めて誘われたから思っている以上に舞い上がっててつい強気になってた」 「舞い上がってた……?」 会長が? 俄かに信じられなくて会長を見つめると、会長はこっちを向いて苦笑する。 (そんな顔、初めて見た) ドキリと心臓が音を立てる。 って、え、え? 俺なんかドキドキしてないか? 「……ここ最近忙しくて、気がついたら日にちが経っていて焦ったよ。 俺から告白しといて今まで連絡をしていなかったから、……下手したらもう終わってるんじゃないかって」 「……」 「でもこっちからメールするにもどう書いて良いか分かんなくて、ウダウダしてた時に圭介からメールがきたんだ。 だから今日がすっごく楽しみで浮かれてた……幻滅したか?」 「え?」 「周囲が言ってるような完璧な奴じゃないんだ。 仕事だって俺がミスして追われてたし、……メール返す前に何度も圭介のメール見てるような奴なんだよ、俺」 「――」 突然の告白に思わず目を見開く。 だって、それ、ほとんど俺と一緒じゃないか。
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