序章

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俺はいつだって独りだった。 正確には、「心」が独りだった。 身体的な意味合いでは友人はいたし、家族もいたから独りではないが、それはあくまで上辺の話。 俺は昔から不器用だったが、「贋物」を作るのが上手かったから。人は自然と寄ってきた。 絵や音楽。料理に声色。個人の癖や、その表情さえも。 だからこそ、俺には本物(オリジナル)は無かった。その概念すらも。 それでも周りはそれを最初は「凄い物」だと称えた。そう、最初だけは。 なにせあらゆる物を模倣する事が出来るのだから、驚くのは無理もない。 しかし、それは蓋を開ければただの「贋作」。 それ以下になることはなかったが、それ以上にもならなかったのだ。 だから、周りは徐々にに離れ、口々にこう言った。 「所詮贋物か。期待して損をした」 そう。所詮贋物なのだ。 だが、俺は期待してくれなどとは一度も言ってはいない。 自慢したこともないのだ。 そして、俺は「魔術」だけはどうしても模倣も複製も出来ない。 それが拍車をかけて「俺」という個人を貶す要因となった。 「使えない」 今では皆そう言う。 そして、皆口を揃えて俺をこう呼ぶのだ。 「贋者」(フェイカー)と。
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