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「ちょっと。起きなさいよアキ。もう朝よ」
時刻は午前6時半。艶やかな黒髪をたなびかせる少女がまるで日常のサイクルのように自然と、慣れた手付きで未だベッドから起き上がらない少年をゆすり起こしていた。
すると、少年はそれを待っていたかのようにパチッとまぶたを開き、ゆっくりと体を起こした。
大きな伸びと欠伸。両目を右手で擦り、意識を徐々に覚醒させる。
「あぁ、おはよう桜。いつもありがとう」
開口一番。少年の言葉は目の前の少女、桜への感謝の言葉だった。
「いいわよ。朝食の代わりなんだから」
「はいよ。すぐに作るな」
アキ、と呼ばれた少年はニッと笑みを浮かべると桜の肩を優しく叩くと寝間着のまま部屋を出て階段を降り、台所へと向かっていった。
この少年、「衛宮晶」(エミヤ アキラ)の住む家はごく一般的な一軒家。
二階に寝室が三つに、客間が一つ。一階に和室が一つあり、トイレに風呂、洗面台、台所。そして少し大きめのリビングがある。本当にどこにでもある普通の一軒家。
しかし、一つだけ普通でない事がある。
実はこの家、晶一人しか住んでおらず、隣に住んでいる桜が遊びに来る……いや、居着いているのだ。
何故なら、彼の家族である父母が仕事の都合で別の町へと移動が決まった際、彼女が
「晶と同じ高校を受けて欲しい」
と顔を真っ赤に染めて頼み込んだばかりに彼は彼女に根負けし、単身この家に留まり同じ高校を受験したのだ。
たまに両親から連絡が入ってくるのを、晶は内心楽しみにしている。
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