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── ◆ ◆ ──
「それにしても、本当にここは別世界って感じだなぁ」
歩き出すこと二十分。周りを見回しながら進んでいた少年は感心したように呟いた。
その視線の先には喫茶店の前を箒で掃除する女性。
だがその女性は箒を手にしてはいない。
つまらなさそうに椅子に座って箒を眺めているだけで、箒が勝手に宙に浮いてコンクリートの地面を掃いていた。
「あ、すごい、多分あれはBコードですね」
少年の視線を追い、女の子もその景色を見てそう漏らす。
「ここにはあんな人がわんさか居るんだろ?」
「はい、むしろ〔アルカディア〕に住む人の九割はコード持ちですから」
「そうだよなぁ……君もコード持ちなの?」
ふと、少年は気になって右隣の女の子に尋ねてみる。
「そうですよ?まぁ、あんな分かりやすい物じゃないですけどね」
「どんな能力なんだ?」
「それは……説明が難しいので内緒って事で」
そう言って女の子は誤魔化すように笑うと前方を指差した。
「あそこの交差点を左に真っ直ぐ進めば、すぐに第五学園に着きますよ」
「そっか、君は?」
「私は……家が右に曲がった方にあるので、その交差点でお別れです」
「なるほど。ここまで道案内ありがとうな」
「いえいえ、どういたしまして」
そんなやり取りをしている間に交差点に。
「今度、何かお礼させてよ」
「んー……ナンパってやつですか?」
「え!?いやっ、そんなわけじゃ……!?」
予想外の返しに慌てる少年を見て、女の子はクスクスと微笑む。
「冗談ですよ。もし機会があればお願いしますね」
「年上をからかわないでくれ……」
「あまりにもベタだったので……ついイタズラしてみたくなっちゃって、ね」
そんな立ち止まっての会話も一段落した所で、女の子は少年に背を向ける。
「それじゃっ、さようなら。また機会があれば会いましょう」
女の子は一度だけ振り返り、そう一言だけ笑顔で告げると右の道へ歩いて行った。
そして少年も数秒女の子へと手を振り、自分の目的地へ向け歩き出す。
(あー……お礼する機会あると良いなぁ)
とか考えたところで、女の子にナンパと言われたのも間違いじゃなったかもと思う少年だった。
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