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「詳しい話を聞きたいんですけど、なにがあったんですか?」
一拍置いた沈黙があった。
「えっと…孝一くん?真二くん?」
「…真二です」
「えっと、お父さんはご在宅ですか?」
親父がどこに行ったのかなんて、こっちが聞きたい。惨めな自分を隠したかった。おれは棄てられたんだ。
「……そんなことより、詳しく教えてください」
話を逸らせた。
小さくため息が漏れたのが聞こえた。仕方なしにと言った口調で話し始めた。
「……お母さんはあの日、卒業式から帰って家のドアに手をかけたところで後ろから刺殺されました。そのことでお父さんにお伺いしたいことがあるのですが、いらっしゃいますか?」
「……いえ」
「では、ご帰宅いらしたら伝えておいて下さい。私は高山といいます」
受話器越しには単一な機械音が鳴るだけとなった。周りには殻のような暗い壁が覆っているだけだった。
真二は固く握った拳を金槌にして壁へ叩きつけた。
「なんでだよ」
何も無いその部屋では真二の嗚咽が反響して、虚しく、大きくなっていった。
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