部屋

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   扉という扉を開けた。戸という戸を開けた。ドタドタと家中を駆け回った。  いつも結末はすっからかんの虚脱感。その度その度に期待を裏切られ、またその反面で予想が当たってゆくことが余計に虚無感をせきたてた。  一つ一つの部屋を周った。リビング、台所、寝室、孝一の部屋、そして親父の書斎。やはり何もない。  かつて箪笥(たんす)があったところは畳のい草の色が違い、壁紙もヤニが付いてなく箪笥を鮮明に思い浮かべることができた。  箪笥だけではない。テレビも、机も、母さんの化粧台も……。そこらじゅうに以前の気配が充満している。壁も床も天井も、身体の一部が無くなっているのを知っているかのようだ。  昔の形跡だけが存分にあることが、辛かった。  結局この家にはもう何も無いのだ。改めてそう気付くと、心臓が抜け落ちたような気がした。大きな無力感に襲われて、その場に倒れるように寝そべった。  夕暮れにつけた蛍光灯がパチパチと点灯しているのが目に写る。その音だけが、遠慮がちに部屋の空気を震わせていた。  
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