外界

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   頼るあては無かった。家族はもういない。親戚と言っても父方は知らないし、母方はもう死んだらしい。  明彦に会いに行こうか。  でも、親父と兄貴が失踪したなんて。はたまたそいつらが殺ったのかもしれないなんて、到底言えない。  やっぱり独りで生きよう。  生き延びて犯人を殺してやるんだ。  胸を大きく拍動させて、拳を小刻みに震えるまで握りしめた。ほんの手始めにその拳で枕を殴った。  ボフッと柔らかい枕は音を立て、素早く型を整えた。形が戻る前に次の一発、また次の一発、また次の一発、また次の一発。  何度も何度も殴っているうちに枕に赤い斑点が付いていく。気付くと指の付け根の皮が剥けていた。  痛いのを我慢してもう一発殴った。やっぱり枕は血の跡だけ残して元どおりになる。 「殺って殺る」  真二は身体を大きく広げてベッドに仰向けになった。そして頭で枕の形を変えた。何か勝った気がする。  軽く呼吸を整える。腰のポケットの財布を広げると、あと何日生きていけるかが明瞭だった。何も無いんじゃ自炊もできない。  「まずは金をどうにかしないと」  
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