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示す所は非常にあっさりしていた。さっきの吸い込まれそうな雰囲気とは異なって、夜の一部でもなったかのようなたたずまいだ。街灯の少ない通りの一角なのだから仕方ないのかもしれない。
実質、寂しい建物だと思った。入口も今時手動で、開けるとひんやりと湿度の高い空気が纏わりついて気持ち悪かった。
真二は少し高めの段差を一段一段……期待に胸を膨らませて、不安に心を枯らせて、そして怨みを咀嚼して上った。
三階。安めの金属でできた銀色のドアの不透明なガラスに"ハッピープラン"とかかれている。
個人弁護士の事務所みたいだ。このちんけなドアの向こうに臨んだものがあるのかと怪訝に思った。
--コン コン
真二はその文字を叩いた。
「どうぞ」
聞こえてきた丁寧な返事のあとに真二は冷たいドアノブに手を掛けた。
心臓が暴れている。
苦しい。
拍動する音が耳から入ってくるようだ。
真二は右手を左手で支えてドアノブを回した。
復讐のために
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