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「どちらさまですか?」
細身で穏和そうな男は客人用の笑顔で真二に尋ねてきた。
「この求人誌を見て来たのですが…」
その部屋は意外とあっさりと清潔で換気扇の回る音が一番大きく聞こえる。真二は脈が急に落ち着くのを感じながら答えた。
「でしたら面接を致しますのでお掛けください」
そこで数枚の印紙を渡され、ボールペンを置かれた。内容は志望動機などの形式的なもので適当な答えを書いた。しかし、名前や住所などを書く所はなく、全く問われなかった。
書類を渡すと男は眼を通すこともなく急に真二を見た。手では目的無しに紙をめくっている。印紙がインク臭く風を沸き立てた。
「"あなたには殺したい人がいますか?"」
男の眼は先刻のものとは思えぬほどの殺伐とした眼だった。真二は恐ろしさを感じつつ、それが望んだ眼のように思えた。
--コロシタイ ヒト ガ イマスカ??--
真二は男の異様な空気に飲み込まれそうになっていた。見透かれているようで恐ろしい。寒気とは裏腹に、手には汗が滲み、息が荒がる。
「はい」
瞬きもせず見つめる男に、それでも真二は敢然と返した。
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