無のなかの有

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   真二を布団の中から出したのは電話のベルだった。真二は幾度となく鳴る音に苛立ち久々に身に外気を当てたのであった。  年季が入って褪せた(あせた)ふすま戸を払いのけるように音を荒げて開けた。薄暗い中で、下げた視線を虚ろにあげる。  すぐさま異変に気付いた。  "無"だった。  部屋から出た先にある棚が無くなっているのが、まず目に入った。  それだけじゃない。無いものが見つかる。次々と。 「なんで、なにもないんだ。兄貴。親父。どこ行ったんだ」  なにがなんだか分からない。全く理解できなかった。同じ考えを何度も往復した。  何もない部屋にあるもの、それが"無"だった。    留守番電話になった電話から聞こえる堅苦しい声に振り向くと、電話だけがぽつりと孤在していた。電話が残してあることを怪訝に思ったが、救われた気分だった。  真二は血色変えて手を伸ばした。   「警察ですが、この度の件で事情を聞きたいのですが――…」    真二はそこで受話器をあげた。  
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