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「でもどうやって……? まだ桜なんてどこにも……」
そう、今はまだ3月。フレグランスの材料になる桜の花は、この辺じゃまだ咲かないはず。
「知りたい? じゃあ、工房に来てみて」
四季に言われるがままに工房に入ると美しい桜、しかも満開の花がたくさんついた枝が、古びた花瓶に差してあるのが目に入った。
「これ……庭の……?」
呆然と尋ねる私に、四季は得意気に頷いた。
「うん、俺が咲かせた。肥料とか水とかいっぱいあげて、なんとか早く咲かせられた」
「な、なんで……」
四季は真面目な顔を私に向けた。
「俺の本気、桜ちゃんに見せようと思って?」
不覚にも、一瞬心臓が跳ね上がった。
「桜ちゃんには、俺が作った香りをつけてて欲しい……。それで、俺でいっぱいになって欲しい……」
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