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「……つき」
ここは平安京の喧騒から遠く離れた比叡の山。
私は尼として延暦寺にいる。
格子から外を眺めれば、そこにはまんまるの、真っ白い光を放つ名月。
私にとっては辛く哀しく、温かい想い出がたくさん詰まった月。
つぅ、と私の頬に冷たい雫が伝った。
「望月の……」
月を見つめながら、微かに口を動かす。
「めずらしく照る、夜(ヨ)のほどろ……」
一言紡ぐ度に、涙が溢れた。
「傍らの君……果敢なげに、見ゆ……」
部屋の中で、月に手を伸ばした。
ぱたりと手を降ろし、呟く。
「 様……」
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