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もっぱら武芸に精を出し、歌など全くと言っていいほど詠まなかったあの人……。
ぶっきらぼうだけれど、いつも優しく手を差し伸べてくれたあの人……。
家の中しか知らず、父上がお決めになった方と結婚するしかなかった私を救ってくれたあの人……。
一緒に眠った夜、私を果敢なげに見えると、守ろうと言ってくれたあの人……。
「どうして、逝ってしまわれたのですか……っ」
私を残してあの人は、逝ってしまった。
私より戦を選んだ……それはきっと武士のさだめ。
私はまた月を見上げ、あの歌を詠んだ。
あの人が詠んだ、最初で最後の歌。
技巧など気にもしない、飾ることが嫌いだったあの人らしい歌。
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