6人が本棚に入れています
本棚に追加
バシッ!バシッ!と、今日も剣道場から猛々しい音が聞こえる。平和で平凡な、とある江戸の田舎道場。澄み切った空では可愛らしい燕が、元気に追い駆けっこをしている。
蒼が試衛館に来て、約2年が経つ。元々は、江戸の小さな茶屋の看板娘だったのだが、常々「平凡な生活は嫌だ。何か自分にしか出来ないことがしたい。」と思っていた。
ある日、そのことを思い切って父に打ち明けてみた。すると、父は
「そこまで言うなら、思いっ切りやってみなさい。ただし、くれぐれも命だけは大切に―」
と、寂しそうに微笑み、背中を押してくれた。そして、父の親友である近藤周助先生が、道場でお手伝いを募集している、と付け加えた。こうして、試衛館での新しい生活が始まったのだ。
試衛館での仕事は、主に掃除や洗濯、料理などの家事であった。これらのことは、蒼にとっては別段特別なことではなかった。そんな中、暇を見つけては道場を覗いて先生の指導を見学したり、護身術を習ってみたりと、今までとは一味違う生活を楽しんでいた。
最初のコメントを投稿しよう!