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20:26
腕時計の針は時間を刻んでいた。
その秒針の刻む音が聞きえるくらいに周囲は静まり返り空は夜の闇が建物や地面を支配していた。
鈴は少し離れた場所に座り込み水筒のキャップを開け生温い水を飲んだ。
喉は乾いていなかったがこうでもしないと気が収まらなく意味もない動作だった。緊張と気分を紛らすにはあまり意味はなく嫌な気分は晴れなかった。
誰も口には出さなかったが全員死んだ言葉を嫌った様子にこれが戦場の姿だとざらっとした心の声が聞こえた気がした。
そして眼前に入るのは焚火の炎にシルエットがぼんやり映し出される。
明かりに当たり少しばかり姿が見える二人の動く姿の間には遺体があった。
運んでいたのは小隊長に格上げになった真田と同学年の伊東だ。
足取り重く前任者の遺体を持ち上げると地面の上に敷いた毛布の上にゆっくりと置いた。
本当なら認識票のタグだけ取って土の中に埋葬するのだが、川原の前で約束してしまったこともあり面倒な死体運びをすることになっていた。
勿論装備品の外しは石井がやることになっていたが鈴との摩擦を見過ごす訳にはいかないため衛生兵の石井を川原の傍に置いた対象策をとっていた。
新人の鈴にこれ以上火の粉を被らせたくなかった面が強かった。
真田は溜息をついて立ち上がり意味もなく周囲の廃墟に視線をやった。成人した大人ならここいらでタバコを吸って余計な心配ごとをニコチンで散らすのだろうなと憧れやカッコつけにも似た気分を味はっていた。
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