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十二月上旬の寒い朝、一つの影が神楽坂魔法学園の中庭で横になっていた。
空はまだ少し暗く、日は上っていない。
冬だから当然なのだが、それほどに早い時間だ。
影の正体である柴崎要は、敵である八桐和人から貰った情報を全てまとめあげる。
敵の本拠地の場所と、そこに入る方法。
この二つさえ知っていれば、後はどうとでもなる。
「……?」
ドアが開き、誰かが中庭へと出てきた。
普通に考えるとこの時間にはここには誰もいないはずだ。
しかし、要の耳はしっかりとその音を捉えた。
しかし警戒はしない。
それが誰の足音なのか、大方予想はついているのだろう。
「早朝出勤、お疲れさん」
「…………」
要は立ち上がろうともせず、その訪問者を見上げながら言った。
「行くのか?」
「……まぁな」
「……変わらないな。昔から。
相変わらず勝手だ」
「昔の話はいいだろ」
ふてくされたように顔を背けるが、その顔からは笑みが零れている。
「……とにかく、まぁ行ってくるから、ちょっと任せたぜ。今日中には戻るから」
見下ろす影を、要は冗談っぽく見つめた。
「あいつらを頼むな、茜」
二人きりの家族の会話はそこで途切れ、中庭には再び沈黙が訪れた。
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