悪魔遭遇

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「疲れた……死ぬ……ほら、足も俺のことを嘲笑ってるよ……」  人通りの少ない田んぼの真ん中――と言っても一応道はある――を歩きながら、俺は疲労感を隠すこともせずに背中を曲げて呟いた。田舎独特の清浄な空気が俺の鼻腔を擽って若干の回復はするものの、やはりまだまだ疲労が溜まるスピードの方が早い。  おまけに土は少し粘性を帯びていて歩きにくいし、うだるような暑さを造り出す太陽がこちらを睨み付けていて、休憩することもままならない。  そして後を尾けてくる悪魔の着ぐるみを纏った変態が、満身創痍の俺の苛立ちを募らせる。ゴキブリを連想させる全身を覆う黒と、頭の上に刺さるようにして聳え立つ二本の触角。尻に生えた矢印の形をした尻尾。うん、どう見ても悪魔だ。  変態は観察しているような好奇の視線を俺に向けているが、正直なところ不快でしかないので止めてほしい。だが経験上、下手に刺激をすると厄介なことも分かっているので、要らぬことはしない。というか怖くてできない。 「のう、お主。我の声は聞こえているのであろう?」  変態が喋りかけてきた。話し方からして厨二病患者だ。俺は反応したふりをせずに、また前に向かって歩き出した。無視だ。不自然すぎてもうむしろ清々しいくらいの無視だ。 「我の姿は見えぬか? のう? 見えぬのか? ほーれ、ほれほれ」  何やら俺の前に出てきて通行の邪魔をする変態。よく見るとそれが着ぐるみでないことが窺える。もしそうであれば、筋肉の付き方が妙にリアル……というか、人工で再現しきれないであろうレベルだからだ。 「……退け、邪魔だ」  俺は取り敢えず必要最低限の言葉で変態に意思を伝える。嫌な言い方だが、良識ある大人ならこれで引いてくれるはずだ。 「やはり姿が見えておるのか! これは逸材じゃあ!」  変態は喜んでいる。ふむ、どうやら今までの彼――声が低いのでこちらで勝手に男だと判断した――の言葉から鑑みるに、見てもらうと興奮するタチらしい。
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