異界転送

4/24
前へ
/29ページ
次へ
「ふふ。主、ホクホクじゃな!」  悪魔の案内で俺達の現れた山から麓の町まで下りてきて、そこで取り敢えず食料の買い溜めをしている途中。背中ぐらいまである長く艶やかな蒼髪を、特に手を加えることもなくそのままの状態でダラリと下げた少女……あ、美少女が俺の隣でご機嫌に笑む。  俺に髪を結う技術でもあれば、もっと可愛くなれたのだろう。この時ばかりは、前の世界で日本一週などという江戸時代よろしくなことをしていた俺を恨んだ。 「これは……良い気分だな」  俺は悪魔美少女にそう答える。実際、美少女に目を奪われた男共は、次に隣に並んで歩く俺を見て悔しそうな顔をしている。――何でこんな奴が――自分の方が格好いいのに――嫌味な奴だな――エトセトラエトセトラ。  美少女は自分のおかげだとでも言うようにない胸を張るが、その仕草はマニアを昂ぶらせるだけなのでやめた方がいい。ちなみに胸を大きくしないように頼んだのは俺だ。他に誰がいる。美少女も肩が凝るのは嫌だということで、快く了承してくれた。  しかし、注目されるとはこんなにも心地よい物であっただろうか。思えば、前の世界では極限まで人目を嫌っていたはずだ。これはいよいよ、異世界に来て気が大きくなっているのかもしれないな。気を引き締めなければ。  しかし、この気持ち良さを知ってしまったらもう後には引けない。何というか、人に注目されるとはそういった魔性の中毒性がある。  やはり、もう何人か“欲しい”かなぁ。 「やっぱ食料買っといて正解だったな。残った悪魔を探す旅に出よう」 「んー、ま、主が良いなら我も良いぞ」  ――得体の知れない何かが、口端を吊り上げてニヤリと笑んだ気がした。
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!

29人が本棚に入れています
本棚に追加