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「主、アレは駄目じゃ、逃げろ! 早く!」
「ぐっ!」
美少女が俺の腕を引いて叫ぶ。その力は凄まじく、身体能力が異常に上がった俺でさえ地面を踏み締められなくなるぐらいだ。お前のその力があればどんな相手にも負けんだろうに。焦るなよ。
「まあまあ、落ち着いてくださいよ。……僕なんかに命令されるのは嫌ですか、すいません」
さっきからお前はネガティブすぎるだろ。被害妄想乙としか言えねえよ。
美少女は「早く! 踏ん張るなよ、主!」と俺に怒号を放つ。俺は言われてもまだ「ぐぬぬぬ……」と唸っていた。だって、足が地面から離れたらと思うと怖くてだな。それに命令はされたくない。
踏ん張るなと言われれば踏ん張りたくなる。そんな反骨精神を胸に秘めた俺の必死な抵抗が功を奏したのか、追ってきた青年が、美少女が掴んでいる方と違う方の手を掴む。
「“魔”を、野放しにはできませんよ。……僕じゃなくてもっと可愛い女の子がいいですよね、すいません」
「はぁっ、はぁっ。クソッ……」
青年に触れられた途端、俺の手足が急に動かなくなった。次いで疲労感が全身を襲い、そのまま思考、心臓がショートする。
ああもう、言うことぐらい聞いておけばよかったと嘆いても、もう後の祭りだ。
意識していないのに、肩や頬の筋肉が小刻みに震える。震えているのが分かる。
……足から力が抜けて縺れ合い、そこを美少女に引っ張り上げられた。
「っ、主ぃ!」
――そうだ、何を弱気になってるんだ俺は。俺は悪魔がもっと欲しいんじゃなかったのか? もっと甘い汁を吸いたいんじゃなかったのか? ……俺は、生き延びなければならない。生き延びるべき存在だ。
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