そんな訳で

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ユミナは紹介したい人があると言った。ちなみという名前もそうだが、彼女の名前は完成されていて、隙がない。あるようでない。もっとちゃこだとかマユヨとか惨憺し破綻してる名前でもいいのに、その引く気のない感じがして、ちなみはユミナと二人並ぶと、自分が自分でない気分になる。沢山いる一人だとか、考えたくない。この話の主人公は、アナタなんだ。ちなみは自分で自分に祈願をかけた。「彼氏さん?」「え?いや違うっていうか何と言えばいいやら」そしてユミナは目を逸らした。仰々しい。最新の流行に追従する彼女に、ちなみは自分が古い人間のように感じさせられる。モテるんだ、こんなのに限って、図々しさに、クラんだ男達は気が付かないのだろう。ユミナのリアクションは一円見るからに大袈裟、取り繕い。「あ、そうなんだ」「いや変な嫉妬してない?そんなじゃないから、迷惑するからあのどたきゃましゃあは」「ユミナさんはオーバーですよね」前につんのめったユミナにちなみは呆れ顔を隠しながら言った。隠蔽作業は大失敗。「ああそんな冷たい目で見ないでと。ユミナはこんな子じゃなかったハズなのに」「あるよそういう時、元気出して」こういう擦れ合いの場面で、ちなみは直ぐに他人を応援してしまう。いつもそれが損だとは分かりつつも、最後に自分を隠して笑ってしまう。「優しいな、ちなみ、って言われたいわけ?」「そんな」「うそうそ冗談」ちなみは目を閉じてユミナを見ないことにした。その双貌の隙間より垣間見るユミナのおどけた仕草は滑稽で、可笑しかったけれどもちなみは知っている、ユミナの目の奥にあるのは、全く冷たく澄みきった眼球だけだと。「計算高い女」小さく呟いた。言い終わらないうちに「ロボットみたいに言わないで?」とユミナは顔を覗き視る。またその行為がこちらの癪に触ると、知ってのことなのか。「ジャグミング機が近くにあるから、狂いっぱなしなのはこっちの方かな」ぴしゃりと言ってやったことに少し背徳感を伴った快感をちなみは感じた。ユミナは眼をしたにし俯いている。悲しげだ。 「ちなみちゃんのそういうとこ、どうしたら治るのかなあ?」 「何を言ってるのですか?あなたと言う人は、どこまで人をおちょくれば気の済む時はやって来ますか?」ユミナには、なるべく丁寧に宣言するに限ると、そうちなみは心得ていた。
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