カツアゲって、響きだけ聞けばなんだか美味しそう。

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旅人は唖然として、ジークという黒髪の男を見つめた。『なんだ、コレ。錆び付いてんじゃねえか、これじゃ売れねえよ』とか言いつつ、リーダー格だった男の所持品を平然と投げ捨てた。人の物だと言う事を知らないように、乱雑に扱う。 そして、一通り強奪し終わったのか、ようやく腰をあげた。そして、旅人の男に向かって、財布を投げ付けた。 「うわっ!」 突然の事に驚いたが、なんとかキャッチする。なにをするんだ、と思ったが、よく見ればこの財布は見覚えがある――と、言うより、先程カツアゲされた旅人の財布だった。 「それ、お前のだろ。街のハズレは、チンピラ共の巣窟だからな。恐喝、強姦、殺人の悪行三昧の温床だ。この街の住人なら、まず近づかねえ、気をつけんだぜ」 「は……はいっ!」 どうやら、ジークと言う男は、わざわざ自分の財布を取り返してくれたようだった。 危険を顧みず、自分の為に。 「あ、ありがとうございます」 「覇覇ッ! 気にすんな」 今では、邪悪な笑い声にも、親しみが持てた。 そういえば、と旅人の男は思い出す。奴らに囲まれた時、真っ先に思い浮かんだ、酒場のマスターの言葉。 「ひょ、ひょっとして、酒場のマスターが言っていた『弱きを助け、強きをくじく人』って、あなたの事ですか?」 「酒場って……、ああ『オブリビロン』のマスターか。また、勝手な事言ってんな、オイ」 苦苦ッ、とジークは含み笑いをする。なんだか、満更でもなさそうだった。 「で、他になんて?」 旅人の男は、言葉を濁す。確か、他には『割りとクズ』などと言っていたので、言うべきか言わざるべきか、迷う。 「で! で! んでぇ!? どうなんだよ~、教えてくれって!」 うわー、なんか目茶苦茶期待しているーーッ! と、旅人の男は辟易する。なんか、ジークのエメラルド色の瞳はキラキラキラキラッと、光り輝き、宝石みたいというよりむしろ宝石だった。  更に、男とは言え、外見は絶世の美女である。 そんな外見の人物が、キラキラと目を輝かせて近付いて来たので、思わず旅人の男は赤面する。 目の前にいる人物が、割りとクズな人物だと言うことを、すっかり忘れてしまうくらい魅力的で、美しかった。
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