豆乳も酒も、慣れれば美味いけれど、慣れない内は微妙。

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夕方頃。 酒場の稼ぎ時にはまだ早いが、酒を飲む以外にも食事所としても利用する客も多い。まあ、昼間っから酒を飲むようなちゃらんぽらんな輩もいるのだが。 取り敢えず、酒場『オブリビロン』も例に漏れず、そのような感じだった。夜は満杯で50人程入り賑わう店内も、今現在は食事客がいるくらいで、酒場特有のワイワイガヤガヤしている様子は見られない。 ここのマスター的には、大人しい方が楽で好きだった。酔っ払いの扱いは、得てして面倒だった。正直、商売だから仕方ないと割りきってはいるのだが、飲み過ぎて吐く輩もたまにいる。それに、金がないからツケにしてくれだの、と宣う厄介な客もいる。 しかし、噂をすれば影とはよく言ったもので。 「…………げ」 「ヘイ、マスター。げ、はないだろ。げ、は。客が来たんだからスマイルスマイル。接客業は笑顔が基本だろ?」 「ツケ溜め込んでいる奴に、笑顔で接客する奴がいるか?」 「あー、今日は払うよ」 「本当だろうな、もう何十回聞いたぞその台詞」 厄介な客。美女の外見をした割りとクズな男。まあ、マスターの知己ではあるのだが、知り合いの誼み(よしみ)でツケを払わなかったりする常連だった。 その容姿を使って、女のフリをして、奢ってもらったりなどもしている。マスターも、結婚して妻子がいなければ、危なかったかもしれない。それほど、恐ろしく整った顔立ちをしているのだった。 ドカッ、と。ジークは空席が目立つカウンター席に(大体の客はテーブル席である)座って、 「じゃ、オレはいつものと……そうだなー、今日はなんかオススメは?」 「東国から、いい酒が入ったぜ。なんでも米から造った酒らしい」 「へえ、米か……。んじゃ、それで頼むわ」 「あいよ」 そうだ、とジークは付け加えて、 「それと、マスター。あんた、オレの事を随分と良く言ってくれてるみたいじゃねえか」 「……? 身に覚えが無い」 「いやいやいや。今日会った旅人に聞いたぜ? 誰が、割とクズだ馬鹿野郎」 「適切だと思うがな」 マスターは、ぶっきらぼうにそう言った。
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