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「『割とクズ』……ねえ」
ジークは、エメラルドグリーンの目を細めて、
「だが、弱い奴らは、搾取されるばっかだ……。強い奴らだけが、一方的に肥えてんのは、間違ってんだろ!」
国や法で守られた他国とは違って。ここ『アスパル』は――弱肉強食。無法の地であるが故に、この街では、実質、魔術が使える貴族や、それらと取引をする奴らに支配されている。
強者のみが得をし、弱者は虐げられる――そんな、不条理な世界だった。
「強けりゃ、そんな事していいのかよ? いや、違う! 絶対ェ、違うだろ! ……だったら、なんで弱い奴らばっか食い物にされなきゃなんねえんだ。そんな――それこそ、クズみてえな奴らは、そんな目にあって当然だろうが……っ!」
「……まあ、確かにそうかもしれないな。だが――」
マスターは、グラスに酒を注ぎ、トンとジークの目の前に置いた。
そして、口を開く。
「それは、お前さんの自己満足に過ぎん。お前がそうやって、クズみてえな奴から金巻き上げて! 何か、変わったか?」
「……少なくとも、こうして酒が飲めるくらいは、変わったぜ」
「ジーク!」
マスターは、少し声を荒らげた。
「真面目に聞け! お前はだな、まっ――」
「マスター」
ジークは、マスターの台詞に言葉を被せてそう言った。
聞きたくないと言わんばかりに。
――拒絶、した。
「いつものは……まだかよ」
「ジーク……っ!」
「オレは、もううんざりなんだよ。力を持ってる奴らにゃあ、ロクな奴はいねえ。力に溺れて、欲にも溺れてんのさ。腐ってやがる。……クズみてーな奴らだ」
「…………」
マスターは、目を細めてジークを見詰めた後、黙っていつものを出す準備をした。
普通なら、こんな馬鹿な事を辞めさせるべきである。だが、マスターは、ジークがこのような馬鹿なマネをするきっかけを――知っている。否、知ってしまってからこそ、止められないのだ。
ジークを取り囲んだ境遇が状況が、今のジークを作った。彼は強者を嫌う――否、憎んでいると言っても良かった。……それは、変わることのない、ジークの本質的なモノ。
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