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(あわよくば、ジークの馬鹿を止め、まともに更正してくれるような奴が、居てくれれば――)
お、とそこでマスターは閃いた。更正させる事はともかく、変える事はできるのではないかと。
男ならず、人を変えるもの――それは、恋。つまりは異性である。実はマスターは、昔はやんちゃだった時期があったが、家庭を持ってからは、落ち着き、こうして家族で酒場を切り盛りしている。
ならば、この自由奔放で危なっかしい男も、女ができれば落ち着くのではないか、とマスターは思ったのである。
「それよか、ジーク。お前さん、こっちの方はどうよ?」
「んあ?」
マスターは、ピコンと、小指だけを建てて、そう言った。
ジークは、あぁと得心いったように呟く。
「それ、古くねえか? まあ、マスターもおっさんだから仕方ないか」
「俺はまだ、40代だ」
「そうか。オレはまだ10代なんだ」
「十代っつっても、19だろうが」
「十代には変わりねえさ」
それは置いといて、とジークはひとこと言って、
「……そっちの方は、ご無沙汰だな。出会いもねえし」
「そうか」
「あぁ。全く、どっかにとんでもねえ美人が居ないもんかね。マスター、いたら誰か紹介してくれよ」
「そうだな。ジーク、お前ちょっとトイレ行って鏡見てこい」
「んだと、コラ。喧嘩売ってんのか――って、よく聞いたら褒め言葉じゃねえか、ありがとう」
「どういたしまして」
あははははは、と声を揃えてジークとマスターは笑う。まるで親子のように、仲良く笑った。
暫し、笑って。
マスターは、ジークの目の前に大きめの皿を置いた。ジークが先程頼んだ、『いつもの』である。
「ほら、待たせたな」
「おう! 何か、これを食うのも久々な気がすんぜ」
そう言って、ジークは木製のレンゲのように大きなスプーンを手に取る。
ジークが頼んだ、『いつもの』――それは、大皿に盛られたカレーライスだった。山盛りのライスに、黄色ではなく、どこかどす黒い色をしたルゥ。色が濃いのは、辛い証拠。ジークは激辛のカレーがお好みだった。
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