カツアゲって、響きだけ聞けばなんだか美味しそう。

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その笑い方は、正義の味方と言うには程遠く、むしろ、悪魔のような邪悪な笑い方だった。チラッ、と旅人の男は、電光石火の如く現れたその人物を、視界に入れる。 瞬間、言葉を失った。 そこには、先程の邪悪な笑い声に反して、旅人の男が、今まで見た事のないくらい整った顔立ちをした人がいたからだ。 鮮やか、且つしなやかさを兼ね備えた長い黒髪。尖った頤(おとがい)の上にスマートな美貌。すっきりと通った鼻筋は高く、目つきは若干悪いが、宝石のようなエメラルドグリーンの瞳をしていて、じっと見ていると吸い込まれてしまいそうだった。  しかし、ポニーテールにも見えるが、その人物は髷のように黒髪を後ろで一つに束ねていたり、白く細い首にぽっこりと確かに喉仏があるのを見て、この人物が男なのだと半信半疑ではあるが、やっと理解する。 そこで、漸く(ようやく)その乱入者は口火を切った。 「……見たぜ」 と、簡潔にそう述べる。 絶世の美女のような容姿であるにも関わらず、意外と男らしく、低音な声だった。 そのまま、続ける。 「寄ってたかって、旅人なんぞにカツアゲかましてんじゃねえぞ、テメェら!」 その台詞で、チンピラの男達の硬直が解け、ハッと我にかえる。 そして、自分達が攻撃を受けた事を理解し、乱入者を睨みつけた。 「なんだテメェ……!」 「よくも、やりやがったな!」 「ぶっ殺す!」 「おうよ、殺せェ!!」 口々に、男達は騒ぎ出す。 凄まじい怒気を、乱入者へと向ける。その怒りの矛先ではないにもかかわらず、旅人の男は身震いを覚える程。それくらい激しい怒りだった。 だが、 「覇覇ッ、禍覇覇覇ッ」 それでも、一切臆する事なく、美しい乱入者は不敵に邪悪に笑う――いや、堂々と笑ってみせた。 「御託はいいから、さっさと来いよ。ブルっちゃってんのか?」 『なっ!?』 リーダー格の男は、吹き飛ばされたとしても、4対1。かつ、四人とも武装をし、屈強な体つきをしている。全員、肌が見えている部分から、傷の跡がいくつもあるのを確認できる。それは、先程の『殺す』と言う発言も本気で言っていると思われる、経験を積んだ証。
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