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「おい、戦線はどうなっている?第五部隊は、第八部隊はどうなっている!」
荒い口調で士官服の男性が部下に声を掛ける。
「はっ、只今敵軍後方にて奇襲作戦の遂行中であります」
部下が迅速な回答をするも、男は苦い顔だった。
「くっ、拙いな。このままでは奇襲云々の前にこの本陣まで攻め込まれるぞ!」
そう一人ごちて、戦場を眺めながら男は部下に命令を下す。
「おい、今すぐに第八部隊を呼び戻せ!」
しかし、先程迅速に反応した部下の声が無い。
「どうした?今すぐに…」
振り向いた時、其処に部下の顔は無かった。
其処には、体の上に在るべき物を失った部下達と、その中で血塗れた年端もいかない少年がいるだけだった。
「なっ?」
男は困惑していた。
本陣にいた部下達二十数人は、情報士官でこそあれど、戦闘において一対多で遅れを取る様な、使えない部下等は一人もいなかった。
―油断?
―いや、手塩に掛けて育ててきた彼等がそんな事をする訳が無い。
―ならば。
「貴様、何者だ!」
男は軍刀を抜き、戦闘体勢をとる。
だが、それにも関わらず、少年は目の前に転がる部下の首に、右手に持っていた槍を突き立てた。
「き、貴様ぁぁぁ!」
男は即時に脳力を解放。
その斬撃は、まさしく刹那の瞬間に少年の首を胴体と別れさせた。
筈だった。
―手応えが無い?
そう感じた瞬間、男性は前に飛び退き、体を捻ろうとした。
だが、その時、彼の眼前に映ったのは、愉しそうに笑う血塗れの少年と、首を失い倒れゆく自らの体だった。
静かになった本陣にて少年の、死者を嘲笑う声のみが何時までも響き渡っていた。
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