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「ゆるせない」
電車の中で、そんなつぶやきをもらす青年がいる。これには、もちろん訳がある。
青年は、声優の専門学校の帰りに、この電車にのった。
すると、ある友人の姿が目にとまった。声はかけない。この友人は、電車やバスなどにのっている時、話しかけられることを、大嫌いなカエルをさわることよりも嫌う。
青年は、友人と離れた場所にすわった。
「あの、聞いてますか?」
青年は、その弱々しい声のする方へ、目をやった。
すると、友人の隣にすわり、しずかな怒りを漂わせながら話しかける女の子がうつった。
友人は、目をつぶりながら、音楽を聴いている。完全な無視だ。
女の子は、何度も何度も、話しかけた。内容を聞いていると、どうやらこの女の子が、友人に告白したらしい。それにもかかわらず、友人はアイドルの声音に聴き入っていた。
お世辞にも、可愛いとは言えない女の子であり、友人の好みにも一致しないが、ここまで拒絶するのは、
「ひどすぎる」
と、青年も怒りを感じはじめ、
「ゆるせない」
と、つぶやいたのだ。
その時だ。
「すみません。うるさいんですが」
友人はそう言うと席をたち、離れた場所のつり革をつかんだ。
女の子は、怒りと悲しみのまざった表情を見せた。
友人は、電車をおりた。
青年は耐えられなくなり、おもわず、女の子に声をかけた。
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