大将の店

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いつもの夕間暮れ、いつもの頃合い。 一杯呑み屋の大将は 「そろそろか」 と小さく呟いて湯のみと一切れのたくあんを黒ずんで塊になったヤニがポツポツと染み出ているカウンターの内側で静かに用意し始めた。 カウンターの席は椅子の代わりに丸太が3本。皮は綺麗に剥いでささくれが出ないようニスが塗ってある。 テーブル席は壁にくっつけて1つ。細めのこれまた丸太が4本置いてはあるが、1面に1人がいいトコだ。 勿論、この時代にはちゃんとした椅子は存在してたけど、大将はお金をかけなかった。 大将はあの男の用意が終わると、も少し銭を持って来る客用のアテを振り向いて白いだけの小鉢に取り分けていった。 今日は大根と大豆の煮しめ。少し鷹の爪を入れてピリリとしている。 も1品ある。 鯵と葱の簡単な「なめろう」だけど臭み消し込みの生姜は大将が嫌いなので入ってない。 合わせ味噌の具合が多分絶妙なのだろう。 それでも店を畳まなくて済むのは近くに呑み屋がないのが1番で、次は大将の味(人間のかアテのかは不明)が気に入っているからだろう。 「ヘイ!大将」 かすれた茶色の暖簾をパシリと跳ね上げていつものあの男がバタバタ入って来た。 勿論、かすれた暖簾も気にしない大将はいつものように薄くニヤリとして今日も弥七の前に湯のみ酒と一切れのたくあんを静かに置いた。
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