暖簾

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ここはとある港町。 いつもはそうでもないけれど、お天道様の気まぐれでツイと風向きが変わる刻は海からの潮の匂いが浜にある連理松をすり抜けて一杯呑み屋の暖簾をゆらす。 その暖簾も10年という月日に負けて薄茶色になり、端々がカスカスになっている。 大将はまだまだ買い換える気はなさそうだ。 夕間暮れになると、その暖簾を毎日のようにパシリと跳ね上げる男がいる。 男はろくにその暖簾を見たコトも気にもしたコトもない。 まぁ無字だから致し方ないが… そろそろ夕間暮れ。 今日は潮が少ぅし香る。 仕事帰りの人がちらほら行き交ってきた。 その中にいつものあの男が呑み屋にいそいそとやって来た。 男は暖簾の前でクンと潮の匂いを嗅ぐと戸をガラリと開けていつものようにパシリと暖簾を跳ね上げた。 「ヘイ!大将」 大将はいつものように目を細めて薄く笑った。 暖簾もいつものように ゆらり、ゆらり。
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