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いちごのたると。と。あのこ の えがお。
あの子が好きないちごタルト。
好きなあの子はもういない。
さくさく生地のタルトの上に。
赤くて少しだけすっぱいいちごが並んでる。
思い出したらもう終わり。いちごタルトとあの子の笑顔。
一口食べて、笑ったあの顔。
ーー最後の。
「最近買いに来ないわね?」
いっそ清々しいとでもいえるほど笑顔で、彼女はそんなことを言ってのけた。
あの小さなかわいいいちごタルトを買いに行く理由は、もうなくなってしまったというのに。
それを小さくつぶやいたところで、その笑顔は揺るがない。
「理由を無理やり消したのは、あなたじゃない」
そんなこと知っている。
知りたくなんてなくつも、嫌でも分かってしまうほどに。
くすくすと、奇妙に反響する音で笑いながら、彼女は首をかしげた。
「根元に埋められた死体の流す血で桜が色づくというのなら、いちごはなぜ赤いのかしらね?」
自分の顔色が変わってしまったのが、誰に言われなくてもわかった。
それでも彼女の、そのやわらかい笑みは崩れない。
「あの子はどこに眠っているの」
どこに。
いちごタルトを食べて、こんなに美味しい物をはじめて食べた、とはにかんだあの子は。
「あなたが知らないはずないわ」そうでしょう?と誘われるように伸ばされた腕に、思わず手を伸ばした。
「流れる血で色づくなら、血は流れ続けなければならないものね」
にっこりと微笑んだ彼女は、またくすくすと笑い始める。
「いちごは真っ赤。桜よりもよっぽどつややかに」
伸ばした手がつかんだ彼女の腕は、白く、細く、ぞっとするほど冷たかった。
桜よりも、いちごよりもつややかに真っ赤に彩られたそのくちびるが、柔らかい笑顔を作ったように見えた。
「真っ赤ないちごは可愛らしいわ。まるで眠るあの子のように」
彼女の手元から転げ落ちたいちごは、 可愛らしく真っ赤に熟れていた。
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