始まり≪赤色の晩餐≫

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夜。 辺りが漆黒に包まれる頃だった。 ーー暑い…。 夏の蒸し暑さが体にまとわりついてくる。 『う゛ッ!』 う゛? これって…悲鳴か!? そう思うより先に、声の聞こえた方へと駆け出していた。 誰かが、危険な目に合っているかもしれない。 角を曲がったところで、足を止める。 蛍光灯の薄明かりに照されて、こちらに背を向ける形で踞る影が見える。 「・・・あの…ーー」 少し遠く離れた場所から声を掛けようとしてやめた。 何だか様子がおかしい。 妙な音がするのだ。 はふ、はふ… ぬちゃ、ぬちゃり… はふ、はふ、はふ… ぬちゃり、ぬちゃ、ぬちゃ… その音はまるで、獲物を捕らえた肉食動物が食事をするような音だった。 はふ、はふ、はふ、はふはふはふはふ、はふ… ぬちゃり、ぬちゃ、ぬちゃ、ぬちゃりぬちゃり… 不気味な音は、一向に止まない。 気持ち悪いし、帰るか? そう思ったが、ふ、とあるものが気になった。 人影が手に持っているもの… 人影は、それをむさぼっているように見える。 白くて、細くて、先端が5つに別れている。 あれは・・・多分… ーー人の手だ・・・!! 人影の前に出来た赤い水溜まりを見て、確信した。 ーー・・・ここにいたら…喰われる…!! なぜ、喰われると思ったのかは解らない。 でも、俺の五感は必死で警報を鳴らしていた。 背中に、冷たい汗が流れるのを感じて、1歩後ずさる。 すると、今まで忙しなく続いていた音が、ピタリと止んだ。
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