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「……農夫を続ける理由は?」
「だって、農夫は一生続く理由がある。作った作物で、みんなの生活を支えることができるんだ。勇者という一時の安定しか得られないものより、これほど安定した理由のある職業はない」
それはしっかりとした理由で、こんな事態でなければ、褒められるようなしっかりとした意志の持ち主だろう。しかし、今は褒められるような事態ではない──少なくとも、コーダは褒める気がしなかった。
「……おい、テメェ」
自分の言いたいことを言って、満足したような様子のユーリに、コーダは低く冷たい言葉をぶつけるかのように言い放った。
冷たい刃を背筋に直接当てられたような悪寒を感じさせる、しかも直接頭の中に響くその声に、ユーリは驚いたように目を見開きつつ、コーダを見ていた。
「どんな理由があるかと思えば……今までに例がないくらい、まともでありながらふざけた考えだ。たかがそれ程度の理由なら、グダグダ言うな!」
まるで牙を剥き、今にも襲いかかろうとしている獣のような気迫を感じさせるコーダに、ユーリは目を丸くしたまま、何も言うことができずに、ただコーダに目を向けていた。
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